●「心理職」について
教育や医療、司法など、さまざまな分野で活躍する心理職は日本臨床心理士会などによると、現在約2万8千人と言われます。資格所有者の内訳は臨床心理士や臨床発達心理士、学校心理士など20種類ほどあり、その職場は病院の精神神経科や心療内科、家庭裁判所の調査官、企業のメンタルヘルス担当などですが、所有している心理職の資格は、すべて民間資格で資格取得の難しさもバラバラであるため、一定の水準を持った国家資格の必要性が指摘され、さまざまな経過を経た後平成29年9月15日に公認心理師法が施行され、わが国初の心理職の国家資格として「公認心理師」制度がスタートしました。
スタートした「公認心理師」の資格は国家試験を実施することで認定されることになり、今まで国家資格がなかった心理カウンセラーの業界全体の信頼性の向上に寄与することは間違いないものと思われます。一方で、従来からある多くの心理職の民間資格は国家資格ができたことで、今までの民間資格や有資格者はある程度淘汰されますが、当面は既得権を侵すことがないように有資格実務者への配慮はされるようです。また一方で、公認心理師はストレスにうまく対応できる心の状態をつくる「認知行動療法」などを使い、心の問題に取り組みます。
方法はカウンセリングが中心で、薬の処方など医療行為は行いません。日本臨床心理士会が2011年に実施した調査では、臨床心理士の6割以上が修士課程を修了していますが、5割は年収300万円台以下の状況でした。そういうことから、公認心理師という国家資格が誕生したことで、心理の専門家の待遇改善につながるとの期待もあるようです。
●「公認心理師」と「臨床心理士」
現代の社会では、情報や価値観の多様化による災害や事故、対人関係のストレス、子どもの情緒や発育上の問題などが起因して、自分の生き方がわからないことで悩む人が年々増えています。うつ病の患者は100万人を突破し、不登校も年々増加、児童虐待の相談も後を絶たず、自殺者も全く減らないのが現実です。言いかえれば、これらはどれも「心理カウンセラー」の助けを必要としているのです。
心理職は、もう何年も前から国家資格化が望まれながら、その分野の国家資格がありませんでした。それが、一昨年9月9日に公認心理師法が成立し、ようやく心理カウンセラーの資格が国家資格化されました。
公認心理師法案では、心理職の国家資格を創設する理由を下記のように記載しています。
『近時の国民が抱える心の健康の問題等をめぐる状況に鑑み、心理に関する支援を要する者等の心理に関する相談、援助等の業務に従事する者の資質の向上及びその業務の適正を図るため、公認心理師の資格を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である』
公認心理師は、心理に関する支援を必要とする人の悩みや相談に応じたり、心理状態を観察・分析したり、また相談者への助言や指導、サポートを行う人であり、一言でいえば医療や教育の分野でカウンセリングなどを行う心理職と言えます。
(参考)
今、国家資格「公認心理師」に注目が集まっています。今まで心理職といえば、民間資格の「臨床心理士」が代表格でした。心理学ブームで臨床心理士資格試験の受験者は、最近は2,600人前後で推移しています。「公認心理師」は医療現場での医師との業務の関係性に違いはありますが、患者の心理面を支えるという仕事の内容は臨床心理士とほぼ同じです。
話題となっている大きな理由は、公認心理師は民間ではなく文部科学省・厚生労働省が管轄する、国家の後ろ盾がある資格であるため、就職に有利になるのではという期待感があるようです。両資格とも学部を卒業後、指定の大学院(主に臨床心理士指定大学院の中から公認心理師資格取得大学院を設置する予定)に進学し、受験資格が得られます。ただ、臨床心理士は卒業学部を問わないのに対し、公認心理師は心理系学部・学科卒業である点に注意が必要です。
全国の臨床心理士指定大学院171校(17年4月現在。専門職大学院を含む)中、約半数が公認心理師への対応を表明しています。同志社大、立命館大、法政大、日本女子大、明治学院大、京都女子大、追手門学院大、大正大、京都文教大、愛知学院大など心理学分野での有力校が名を連ねています。これらの大学院を修了し、試験に合格すれば、公認心理師と臨床心理士のWライセンス取得が可能になります。 指定大学院の人気は「学部の偏差値順」であると言われていますが、今年には早くも臨床心理士などの心理職実務者や大学教授などを対象に、特例措置で第1回の公認心理師の国家試験が行われます。 |